急激な気候変動や自然災害、非連続的な技術革新、2020年1月以降の新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、世界規模というかつてない規模と速度で経済や社会の生活モデルが急変しました。コロナ前の自由な生活を取り戻したいという内なる声を大声で叫びたい衝動にかられるのはレンコンだけでしょうか。
こういった環境変化の「不確実性」に加えてアメリカの政権交替で脱炭素化への動きに拍車がかかってきました。
非連続的な動きに対応することはますます難しい状況になってきましたが、企業が継続していくために、地に足をつけて今予想できる変化に対応するための社内体制を整える必要があります。
この記事を読むとどうなるの?
全シリーズ7回で製造業を取り巻く環境変化を過去から現在までを考察し、今後の情報化に対応するために経営のどこに注目して改善すればよいのかのヒントがあります。聞きなれない言葉に振り回されず、地に足をつけて賢く進んでいきましょう。
7-5不確実性の時代における製造業の企業変革力
非連続な変化を引き起こす可能性のあるデジタル技術革新
AI(人工知能)に関しては、すでに画像解析による外観検査・検品、工場内の作業監視によるミス防止、製造設備のセンシングデータを分析した異常検知等、製造現場での活用事例が広がっています。自動車産業における自動運転分野では、Google等IT大手やベンチャー企業が参入し、競争が加速しています。
5Gなどの次世代通信技術は、クラウドへの無線通信を可能にするために生産性が劇的に向上するといわれていますが、レンコンは、「クラウドってセキュリティ大丈夫?」って思って二の足を踏むのです。セキュリティ技術である量子暗号通信についても開発は進んでいるようですが、それが絶対的に破られない壁なのか?文系人間のレンコンにとっては はてな?です。
情報を他者からタダで盗む人がいない世界なら可能ですが・・・。今は残念な状況です。
クラウドを管理している会社のセキュリティをどれだけ信用できるかがポイントです。
自動車産業における今後の変化
図表5-1自動車産業の構造の変化
自動車産業は、CASE(Connected:つながる化、Automated:自動運転、Shared&Service:シェアリング・サービス、Electified:電動化)といわれる100年に1度の大きな変革に直面しているといわれています。CASEの変化は、IT等の異なる業種にとっての大きなビジネスチャンスになるとともに既存の自動車関連産業にとっては競争激化となります。また、電動化により既存の自動車産業のバリューチェーンにも大きな変化をもたらします。
CASEがもたらす社会像を実現するためには、自動車工学とソフトエンジニアリング双方を担えるIT人材の不足、既存・CASE領域双方における開発の効率化、サプライヤーなどのCASEへの対応力の強化が必要となります。
不確実な世界における企業の経営戦略
通常能力(オーディナリー・ケイパビリティ)と企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)
図表5-2オーディナリー・ケイパビリティとダイナミック・ケイパビリティの相違点
オーディナリー・ケイパビリティとは、与えられた経営資源をより効率的に利用して、利益を最大化しようとする能力であり、企業にとってオーディナリー・ケイパビリティを高めることは重要であるのは明白です。しかし、オーディナリー・ケイパビリティだけでは競争力の維持はできません。
①ベンチマーク化されたベストプラクティスは模倣しやすい
②想定外の変化が起きた場合にどう対応すればよいのかわからない。
そこで「正しいことを行う」ダイナミック・ケイパビリティが登場します。
感知(センシング):脅威や危機を感知する能力
捕捉(シージング):機会を捉え、既存の資源・知識・技術を再構成して競争力を獲得する能力
変容(トランスフォーミング):競争力を持続的なものにするために、組織全体を刷新し、変容する能力
つまり資産を再構成する起業家的な能力です。これは、企業内部で構築しなければなりません。企業がこの能力をもてば、他社が模倣できないので常に有利なポジションを確保できます。資産を再構成するためには、2つ以上の相互補完的なものを組み合わせることによって新たな価値を創造する共特化の原理を利用しましょう。
※共特化の原理とは、2つ以上のものを統合することによって得られるメリットのこと
事例としては、富士フイルムが持っていた写真フイルム技術を応用してディスプレイ材料事業に投資して現実世界を変えました。その後化粧品、医薬品、再生医療等に参入して今や写真フイルムの企業ではなくなっています。
日本の製造業のダイナミック・ケイパビリティ
企業は時代の大きな変化に対応できなければ、長期にわたって存続することは難しいことから長く存続する企業は高いダイナミック・ケイパビリティを有していると推測されます。
図5-3業種別老舗企業構成比
創業100年以上の老舗企業において製造業は全体の1/4を占めています。
ダイナミック・ケイパビリティの優位な柔軟な組織は、次の特徴を持っています。
①職務権限を職位や地位に貴族させて、そこに人間を割り振る
②職務権限があいまいにされている
③メンバーが特定の職務権限を保有する期間が短い
オーディナリー・ケイパビリティとダイナミック・ケイパビリティはトレードオフの関係
オーナー企業は、経営者がリーダーシップを発揮しやすく、、迅速な意思決定ができる優位性があります。
図表5-4創業年数別オーナー企業の割合
長期に持続する企業にオーナー企業が多いことは、経営者のリーダーシップがダイナミック・ケイパビリティにおいて重要であることを示している。
図表5-5不測の事態に対する柔軟性や俊敏性重視のスタンス(縦軸)と平時の効率性や生産性重視のスタンス(横軸)の関係
「不測の事態に対する柔軟性や俊敏性」を重視すると回答した企業のうち、8割弱は、「平時の際の効率性や生産性」も重視すると回答しています。
図表5-6平時の効率性や生産性重視のスタンス(縦軸)と不測の事態に対する柔軟性や俊敏性重視のスタンス(横軸)の関係
「平時の際の効率性や生産性」も重視すると回答した企業のうち、「不測の事態に対する柔軟性や俊敏性」を重視すると回答した企業は4割にとどまっています。
オーディナリー・ケイパビリティとダイナミック・ケイパビリティはトレードオフの関係なので、オーディナリー・ケイパビリティを重視する企業にとってはダイナミック・ケイパビリティへの関心は劣後しているようです。
しかし、不確実な世界では、ダイナミック・ケイパビリティへの関心はとても重要です。
次回は、製造業におけるデジタルトランスフォーメーションの課題や2025年の崖、製造業の設計力を強化するためのお話です。