急激な気候変動や自然災害、非連続的な技術革新、2020年1月以降の新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、世界規模というかつてない規模と速度で経済や社会の生活モデルが急変しました。コロナ前の自由な生活を取り戻したいという内なる声を大声で叫びたい衝動にかられるのはレンコンだけでしょうか。
こういった環境変化の「不確実性」に加えてアメリカの政権交替で脱炭素化への動きに拍車がかかってきました。
非連続的な動きに対応することはますます難しい状況になってきましたが、企業が継続していくために、地に足をつけて今予想できる変化に対応するための社内体制を整える必要があります。
この記事を読むとどうなるの?
全シリーズ7回で製造業を取り巻く環境変化を過去から現在までを考察し、今後の情報化に対応するために経営のどこに注目して改善すればよいのかのヒントがあります。聞きなれない言葉に振り回されず、地に足をつけて賢く進んでいきましょう。
7-6不確実性の時代における製造業の企業変革力
製造業のデジタルトランスフォーメーションにおける課題
図表6-1想定し得るソリューションの例とその位置づけ
この図から製造業は専らデジタルトランスフォーメーションを生産性の向上に利用することが重要であることを示しています。
「2025年の崖」
経済産業省「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」の報告書は、日本企業の8割が「レガシーシステム」(複雑化・老朽化・ブラックボックス化した基幹系システム)を抱えていると警笛を鳴らしています。「レガシーシステム」は、爆発的に増加するデータを活用できず、ITシステムの運用・保守に担い手が不在になり、システムトラブルやデータ滅失・流出等のリスクが高まることも予想されるそうです。
図表6-2 I T投資の目的
青:平時の際の効率性や生産性重視(オーディナリー・ケイパビリティ重視)
ピンク:不測の事態に対する柔軟性や俊敏性重視(ダイナミック・ケイパビリティ重視)
オーディナリー・ケイパビリティ、ダイナミック・ケイパビリティの意味は下の過去記事を読んで下さい。
企業のIT投資予算の80%はレガシーシステムの維持・運営に割り当てられているのが現状です。
設計力強化戦略
図表6-3仕様変更の自由度と品質・コストの確定度
製造業では、製品の品質とコストの8割は、設計段階で決まるといわれています。開発が進むに従って仕様変更の自由度は低下していることがわかります。設計で80%決まるので工程設計の自由度はほとんどないことになります。設計方法によっては製造段階での作業負荷がかかり、下請けの町工場にしわ寄せがくる可能性があることを示しています。
不確実性に対応するには、製品設計と工程設計のエンジニアリングに高い能力があることが求められます。エンジニアリングの能力は、製造業が不確実性に対応するダイナミック・ケイパビリティの中核を占めるものといえます。
製造業のエンジニアリングチェーンの現状と課題
図表6-4工程設計の5年前に比べての変化
向上していると回答した36.9%に何が変わったのかを調査したら
図表6-5工程設計力が向上した理由
他部門との連携強化で79.2%となりました。
図表6-4で低下している(4.3%)と回答した企業に何が理由なのかを聞いてみたら
図表6-6工程設計力が低下した理由
工程設計力の維持が熟練者の技に頼りがちで、技術の引継ぎが課題となっています。
同一企業で製造が完結するのならば、部門の連携は容易ですが、製造業のバリューチェーンで工程設計や製造は下請け町工場の場合は、連携が取れているのか疑問が残ります。ここに製造の非効率やムダが発生していると考えます。従って図表6-7の問題が発生します。
図表6-7連携不足による問題
次回は、シリーズ最終回です。製造現場での製造部門と設計部門との連携や協力(下請け)会社に製造を委託する場合の問題点のお話です。