中小企業はどのように事業承継を進めればよいの?
日本における中小企業は、高品質なものづくりを支える製造業やおもてなしの接客サービスを行う小売業・サービス業等、、雇用の受け皿として大切な存在です。今その中小企業に立ちはだかる問題は、経営者の高齢化による事業承継がうまく進んでいないことにあります。5回にわたって中小企業の事業承継の現状や問題点、実態等をグラフを使いながらわかりやすく解説していきます。
この記事を読むとどうなる?
事業承継って何が問題なのか?中小企業の事業承継を取り巻く現状や実態がわかります。また、事業承継のやり方にはどんな方法があるのか等もわかってしまいます。
中小企業の事業承継の実態
1、事業承継した経営者の実態と取り組み
図表16 事業承継した経営者と後継者との関係
図表16は、引退した経営者と事業を引き継いだ後継者との関係を示しています。
男性の子供が42.8%と一番多く、次に親族以外の役員・従業員で19.1%、3番目は社外の第三者で16.5%を占めています。
図表17 事業承継の形態別、後継者決定後、実際に引き継ぐまでの期間
親族内承継、役員・従業員承継は、長い期間をかけて引き継いでいることがわかりますが、5年以上かける割合は少ないです。全体でも引継ぎまでに1年未満という短期間で引き継いでいる企業が55.1%占めているのが現実です。
図表18 事業を引き継ぐうえで苦労した点
役員・従業員への承継では、「後継者の了解を得ること」、社外への承継では、取引先との信頼関係がないために「取引先との関係維持」、「後継者を探すこと」に苦労しています。親族内承継では特にないです。
図表19 事業承継の形態別、現在までに後継者に引き継いだ事業用資産
事業用資産の全部を引き継いだ割合が、親族内承継が一番低いのは、経営者が全てを引き継がず、一部経営権をもっていたい気持ちが強いのか、経営を引き継ぐまでに1年以内(図表17)のため、どこか信用できていないのか?親子関係のデリケートな問題を含んでいます。
図表20 事業承継の形態別、後継者に全部の事業用資産を引き継いでいない理由
親族内承継では、「贈与税の負担が大きい」と回答し、役員・従業員承継では、「後継者が買い取る資金を用意できない」と回答、社外への承継では、「後継者が引継ぎを希望しない資産がある」と回答した割合が高いです。
2、後継者教育
最も重視されている資質・能力は、「経営に対する意欲・覚悟」という心構えです。
図表21 後継者を決定するうえで重視した資質・能力
その他の資質・能力として「自社の事業に関する専門知識」「自社の事業に関する実務経験」「顧客・取引先からの信頼・人柄」「従業員からの信頼・リーダーシップ・統率力等」と幅広い資質・能力が要求されます。
図表22 事業承継の形態別、後継者を決定する上で重視した資質・能力
「経営に対する意欲・覚悟」、「自社の事業に関する専門知識」、「自社の事業に関する実務経験」が三大重要要素です。
図表23 事業承継の形態別、意識的な後継者教育の有無
図表24 実施した後継者教育の内容
実施した後継者教育は、「自社事業の技術・ノウハウについて社内で教育を行った」、「取引先に顔つなぎを行った」、「経営について社内で教育を行った」が三大項目です。
図表25 事業承継の形態別、実施した後継者教育の内容
親族内承継では、「取引先に顔つなぎを行った」
役員・従業員承継では、「経営について社内で教育を行った」
社外への承継では、「自社事業の技術・ノウハウについて社内で教育を行った」
が一番重要視しています。
図表26 事業承継の形態別、最も有効だった後継者教育の内容
親族内承継では、「同業他社で勤務を経験させた」が最も有効でした。
役員・従業員承継では、「経営について社内で教育を行った」、社外への承継では「自社事業の技術・ノウハウについて社内で教育を行った」が最も有効でした。
図表27 実施した最も有効だった後継者教育の内容別、後継者の働きぶり満足度
図表28 経営者引退決断してから、実際に引退するまでの期間別、意識的な後継者教育実施の有無
事業承継には、5~10年かかるといわれていますが、実際5年以上かけた経営者も意識的な後継者教育を行ったのは57.7%で、特に何もしていない経営者が多いです。この背景は、親子間での教育が難しい、親子関係を壊したくない等デリケートな問題を抱えています。
まとめ
事業承継のあるべき姿と実態とのギャップがあり,ギャップを埋めるためには、親族内承継の後継者教育は外部の専門家の協力を得ることも重要かと思われます。
【シリーズ5-2】図表11 後継者の育成に必要な期間
【シリーズ5-2】上記グラフの後継者の育成に必要な期間の過半数を占める5年~10年に対して、上記図表17のグラフと、上記図表28のグラフから分析すると、5年以上をかけて後継者に対して意識的な後継者教育を行った割合は、全体のわずか4.9%となっています。
中小企業の事業承継は、親族内承継が一番多く、後継者教育に十分に時間を確保できる環境にあるにも関わらず、実際には行われていないことが重要な問題であり、解決するべき課題となっています。